国道や高速道路の整備などの公共事業のため、自分の所有する土地建物が国や地方公共団体から買い取られることがあります。
この場合その補償として補償金を受け取りますが、その補償金は土地建物の売却代金と同等ですので、所得税法上は譲渡所得の収入金額になり、場合によっては税金が出ることも。
申告が必要な場合がありますので、注意が必要です。
スポンサーリンク
譲渡所得の考え方は通常の売買と同じ
収用等の場合の譲渡所得は通常の売買と同じで、「対価補償金等」から「取得費」と「譲渡経費」を差し引いて計算します。
この譲渡所得がマイナスの場合、つまり譲渡損失が生じている場合には申告は不要です。
ただし不動産の譲渡損失は、他の不動産の譲渡所得と通算ができます。一方で譲渡損失、他方で譲渡所得が生じている場合には、もちろん通算した方が税額が少なくなるので、合わせて申告をする必要があります。
収用等により土地建物を売ったときの特別控除の特例
ただし土地収用法等の法律により半ば強制的に買い取りをされているため、その収用によって生じた譲渡所得には税法上一定の優遇措置が設けられています。
特例を受けるための適用要件
この特例を受けるには、次の要件すべてに当てはまらなくてはなりません。
- 売った土地建物は固定資産であること。不動産業者などが販売目的で所有している土地建物は該当しません。
- その年に公共事業のために売った資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例を受けていないこと。
収用等の場合、対価補償金等で代替資産を取得することがあります。これについても税法上の優遇措置がありますが、そちらの適用受けている場合には特別控除の特例は適用されません。 - 買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物を売っていること。
これは長い期間で売却を渋り、売却代金をつりあげた人には適用させないという趣旨です。公共事業の円滑化をはかるためでしょう。 - 公共事業の施行者から最初に買取り等の申出を受けた者(その者の死亡に伴い相続又は遺贈により当該資産を取得した者を含みます。)が譲渡していること。
特例計算の方法
上記の要件全てに当てはまる場合には収用等による譲渡所得の金額から最高5,000万円までの特別控除を差し引くことができます。
具体的に計算してみるとこのようになります。
[ケース1]
対価補償金 5,000万
取得費 2,000万
譲渡経費 100万
譲渡所得 5,000万ー2,000万ー100万=2,900万<5,000万
∴ 特別控除額 2,900万
課税される譲渡所得金額 2,900万ー2,900万=0
[ケース2]
対価補償金 7,000万
取得費 1,000万
譲渡経費 100万
譲渡所得 7,000万ー1,000万ー100万=5,900万>5,000万
∴ 特別控除額 5,000万
課税される譲渡所得金額 5,900万ー5,000万=900万
補償金の種類に要注意
収用があった場合、対価補償金の他に、収益補償金、経費補償金、移転補償金など違う種類の補償金が合算して支払われることがほとんどです。
このうち収用等の場合の特別控除の特例が受けられのは原則的に対価補償金のみです。
ただし収益補償金、経費補償金、移転補償金のうちにも対価補償金として取り扱うことが可能なものあります。
[収益補償金]
その補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。
ただし、建物の収用等を受けた場合で建物の対価補償金がその建物の再取得価額に満たないときは、収益補償金のうちその満たない部分を対価補償金として取り扱うことができます。
[経費補償金]
(イ) 休廃業等により生ずる事業上の費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、その補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。
(ロ) 収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(たな卸資産を除きます。)について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。
ただし、事業を廃止する場合等でその事業の機械装置等を他に転用できないときに交付を受ける経費補償金は、対価補償金として取り扱うことができます。
[移転補償金]
その交付の目的に従って支出した場合は、その支出した額については各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されません。
その交付の目的に従って支出されなかった場合又は支出後に補償金が残った場合は、一時所得の金額の計算上、総所得金額に算入されます。
ただし、建物等を引き家又は移築するための補償金を受けた場合で実際にはその建物等を取り壊したとき及び移設困難な機械装置の補償金を受けたときは、対価補償金として取り扱うことができます。
また、借家人補償金は、対価補償金とみなして取り扱われます。
添付書類が必ず必要
申告書には収用があったことを証明する下記の書類を必ず添付しなければなりません。
- 収用等の証明書
- 公共事業用資産の買取り等の申出の証明書
- 公共事業用資産の買取り等の証明書
これらの書類は公共工事を行う都道府県や市区町村から発行されますが、全ての書類が揃っていない場合もあります。
先方も税務の専門家ではないので、何かと抜けてしまうこともやむを得ない。
ただし連絡して書類の名称を伝えれば発行してくれます。申告には上記の全ての書類が必要ですから、足りないものがある場合には追加で郵送してもらう時間も考慮して、早めに連絡をとりましょう。
関係書類は隅から隅まで目を通す
「収用等により土地建物を売ったときの特別控除の特例」を受けるための確定申告をご自身で行う場合には、契約書から添付書類にいたるまですべてに目を通す必要があります。
補償金の種類によりどの所得になるかも異なりますし、また補償金の名義だけで判断できない部分もあります。
かなり専門的な知識が必要になりますので、全く税務の知識がないのであれば税理士に依頼した方が賢明ではないかと思います。
依頼する場合には契約書類と添付書類がそろっていれば大丈夫でしょう。何の書類かわからないから収用にかかわる書類は一式預けてしまうというのもありですね。
5,000万円控除という大きな金額になりますので、まずは収用等があった場合には確定申告が必要になるかもしれないと注意をしてください。
[編集後記]
私は自宅の湯舟につかるのが1年間で数えるほどしかありません。
スポーツクラブで大きなお風呂に入るのが好きなので、自宅の場合はほとんどシャワーだけです。
しかしこのところの寒波で、さすがに湯舟にお湯をはりました。シャワーだけにしてヒートショックになっては困りますから・・・